「地獄の火クラブ」が解散し、メドメナムの僧院に誰もあつまらなくなったのは、政治的理由のためという。正確なところは分らない。クラブが解散すると、ダッシュウッドはふたたび領地のバッキンガムシャー州にひきこもった。そして、巨大な黄金の円屋根のある城館を造営し、ここで昔日の栄光を再現しようと夢想したらしいのであるが、いかんせん、若いころの過度の放蕩が崇ってか、とみに健康おとろえ、宏壮な城館の内部にひとり閉じこもったまま、窓ごしに外の世界を眺めやりつつ、いたずらに時を過ごすのみの状態となった。酒も飲めず、牛乳入りポンスをちびちび飲むばかりだったというから、情けない晩年である。一七八一年、雄図むなしく、彼はここで死んだ。
 村人たちの噂によると、このダッシュウッドが晩年に暮らしていた城館には、現在でも鍵をかけたままになっている秘密の部屋があり、そこには言語に絶するエロティックな壁画が描かれているという。ただし、それを見た者はひとりもいない。


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Last-modified: 2005-05-07 (土) 00:30:14