やがて彼は健康上の理由で、寒い北国のロシアを去り、軍隊に入って七年戦役に参加し、武勲を立てて竜騎兵大尉となった。そして一七六二年、今度はフランス国王の全権公使として、ロンドンのジョージ三世の宮廷に向かったのである。騎士デオンの外交官としての手腕は、目ざましいものがあったらしく、フランスとロシア、あるいはフランスと英国とのあいだに、幾つかの重要な条約を結んでいるほどであるが、ロンドンの社交界でも、やはり彼はしばしば女装をして、ひとびとを驚かしては楽しんでいた模様である。彼のロンドン生活は贅沢をきわめ、その自宅で催された大園遊会は、宮廷のそれにも匹敵するといわれた。彼の没落と、国王に対する失寵の原因は、まずこの浪費ぶりにあった。 |