カエサル以後、風俗の頽廃がいよいよ進み、歴代の皇帝が毒を政治上の武器として用いるようになると、殺人者、今日のいわゆる殺し屋は、ロオマの街の名物になった。下町のスブラ街にも、ティベリス河口の海港町オスティアにも、キュベレー神殿の内部にも、殺し屋の不吉な黒い影はうろつくようになり、ロオマの七丘の一つにあるエスクィリアエ墓地では、夜な夜な、殺し屋一味の秘密の集会が行われた。 この墓地に、そのころ、カニディアおよびザガナと呼ばれる女妖術師の姉妹があらわれ、墓をあばいて子供の骨を盗み、骨の髄を媚薬の原料として使っているという噂が立った。要するに彼女たちは、プトマイン(屍毒)の利用法を知っていたのである。ホラティウスの『エポディー』第五編に、 醜い顔したカニディアは 額に蛇を飾りつけ ヒキガエルの血に染んだ卵に 地獄の鳥の羽をば混ぜる またイオルコスの町に産する毒薬に 不潔な牝犬の骨おば混ぜる… という詩句が出てくる。それほど、この女妖術使の不吉な名声はロオマ市中に高かったのだ。 |