鬼神論者ヨハン・ヴァイエルは『悪魔と魔術師と毒殺者の幻影および瞞着に関する物語、論争ならびに談話』という本のなかに、十六世紀後半に起こった多くの毒殺事件を記録している。 ブウロオニュで、砒素入りの酒樽が二人の人間の死をもたらした事件、ある男がカンタリスを用いて義母を殺害した事件、女たちが昇汞および水銀を多量に飲ませて、その夫の命を奪った事件、等々。 フランスのクレーブ公の侍医だったヨハン・ヴァイエルは、女主人に砒素を飲ませた十五歳の女中を無期懲役に服せしめるために、個人的に裁判に関係したりもしていた。そのとき、彼は砒素の入った鶏肉のスープを自分で飲んでみて、特有の金属性の味覚をたしかめたそうである。もちろん、その直後に強力な解毒剤を飲んだので、死ぬようなことはなかったけれども、残念ながらその解毒剤の名前は現在に伝わっていない。 一五七七年頃、スエーデン王エリック十四世は、豆のスープを飲んで死亡した。噂では、死んだ王の後をついだ弟が、きわめて巧みな方法でスープに砒素を入れたものと信ぜられた。 最近(一九五八年)になって、オルソン教授という学者が王墓をあばき、はたしてエリック十四世が公式の診断通り胃潰瘍で死んだものか、それとも噂のごとく毒物を嚥下して死んだのか、医学的な検査をした。 その結果、教授が発表したところでは、防腐処理をほどこされた王の死体には、まぎれもない砒素の局所的蓄積が認められた。約四百年前の毒薬が、皮膚や骨や毛髪に残留していたのである! |