結婚後数年にして、ふしぎな事件が突発した。 ある晩、彼女の夫のジョヴァンニが、愛用のトルコ馬に打ちまたがり、ちょっとオヌフル教会まで散歩に行ってくるといって出かけたきり、もう二度とローマには戻ってこなかったのである。彼はそのままローマの街を出て、まっすぐ北に向かって馬を走らせ、自分の領地のペサロまでたどりついてしまったのだ。 この事件は不可解な謎のように喧伝されたが、やがて、いろんな噂が流された。
もしこの噂が本当なら、ルクレチアは病弱な夫の目をかすめて、夫の召使と自分の部屋で不貞をしていたのであり、夫は夫で、不貞の妻に助けられて、有名なボルジア家の毒薬の犠牲者となるのを辛く逸れたことになるわけである。 |