ディクスン・カーの探偵小説『火刑法廷』に、このブランヴィリエ夫人のエピソードが巧みに採り入られているから、興味のある方は読んでごらんになるとよい。わたしはこの奇々怪々な小説がたいへん好きで、最近、スリラー映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックがこれを映画化しているという話を聞いて、今から胸をわくわくさせている次第なのである。

カーの小説では、古風な猫の頭の飾りのある腕輪をした、十七世紀の女毒殺魔に生き写しの女性があらわれて、やはり毒殺犯罪の嫌疑を受ける。つまり、ブランヴィリエ侯爵夫人は「不死の人間」で、最初、十七世紀に死刑を宣告され、火刑に処せられて死んだのだけれども、依然として生きていて、十九世紀にも、ふたたび毒殺事件により断頭台で処刑される。この小説に登場するのは、いわば三代目のブランヴィリエ侯爵夫人というわけである。

面白いのは、この三代目の毒殺事件容疑者が、台所で漏斗《じょうご》を見て恐怖の表情を浮かべるというところだ。なぜかというと、かつて十七世紀の公爵夫人は火あぶりになる前に、裁判所の拷問部屋で、台の上に寝かされ、その口に革の漏斗を突っ込まれ、息もつかせず大量の水をどくどく注ぎこまれるという、いわいる水拷問の刑を受けたことがあるからで、その恐怖の記憶が、二十世紀の三代目の女性にまで、目に見えぬ糸のように繋がっているからなのである。


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Last-modified: 2010-05-19 (水) 15:29:54