もちろん、残忍な王妃フレデゴンドは、捕虜になったブリュヌオーの処刑を熱心に主張した。女同士のライヴァル意識はすさまじく、憎しみは双方で煮えたぎっていた。どうしても一方が他方を殺さなければ収まりそうにもなかった。が、ここに思いがけない事態が生じ、シルペリクと息子のメロヴェとが、期せずしてブリュヌオーを庇う立場に立ってしまったのである。 美しい女というものは、いかなる場合にも、有利なものである。今まで悪辣な妻フレデゴンドに悩まされつづけてきたシルペリクは、あわよくば、美しい高貴なブリュヌオーと改めて結婚して、二つの国を一つに結合し、統一王国をつくってみたいという遠大な夢に憑かれはじめた。一方、息子のメロヴェは、一目見たときから、叔母にあたる敵の女王にぞっこん惚れこんでしまって、彼女のためなら生命を捨てても惜しくないと思うまでになってしまっていた。 こうして、若いメロヴェとブリュヌオーとの悲劇的なロマンスがはじまるのである。 まずメロヴェは父親に勧めて、ブリュヌオーをルーアンのある修道院にひそかに送りとどけされる。パリの城に留めておけば、いつフレデゴンドの毒牙にかかって殺されるか知れないからである。父親も、なるほどと思って、息子の案に賛成する。腹の虫がおさまらないのは、裏をかかれたフレデゴンドである。しかし、いくら地団駄をふんで悔しがっても後の祭りであった。 ところが、ブリュヌオーが出発した直後に、彼女を追ってメロヴェもまた出奔してしまったので、はじめて息子に騙されたと知った父親は、かんかんになって怒った。それ見たことかと、フレデゴンドは夫を嘲った。 逃亡した二人はルーアンで落ち合うと、親切な司教プレテクスタの立会のもとに、そこでささやかな結婚式を挙げた。それから有名な聖者グレゴリウスの棲んでいるトゥールの修道院へ行って、ここにしばらく身を寄せることにした。神聖な修道院のなかにいれば、だれからも危害を加えられる心配がないのである。しかし一緒になった二人の幸福も、ほんの束のまだった。 父シルペリクが奸策をめぐらして、息子をトゥールの修道院からおびき出し、有無をいわせず頭を剃らせて、サン・カレーの僧院に監禁してしまったのである。剃髪は廃位のしるしであった。 ブリュヌオーはルーアンに移されたが、忠臣リュピュスに助けられて脱走し、ようやくモーゼル河畔のメッツの居城に逃げのびることができた。ふたたび子供の顔を見ることができた彼女は、もう若い愛人のことなんか忘れてしまって、彼女を一途に崇拝している忠臣リュピュス伯爵とともに、あらためて宿敵フレデゴンド打倒の計画をめぐらすのだった。 |