ここで、処女王エリザベスを取り巻く幾人かの寵臣たちについて語ろう。 まず、エリザベスの即位当時から中年までの第一の寵臣であったレスター伯ロバート・ダッドリー。彼は、ヘンリー七世に憎まれて殺された大臣の孫に当たる。エリザベスと同年ということになっているが、生年は必ずしもはっきりしない。生まれた月日まで女王と同じだという説さえある。すでにエドワード四世*(エリザベスの異母弟)時代から、この美少年はエリザベスの目にとまっていた。まだ少年ながら、その眉目《みめ》よきすがたに同年の少女は惚れ惚れとしたのである。 ロバートが父とともにロンドン塔に幽閉されていたとき、ちょどエリザベス自身も、仲のよくない姉の女王のために塔に押しこめられていた。釈放された後、ロバートはフランスとの戦争で手柄を立て、エリザベスの即位と同時に主馬寮長官に任ぜられた。 エリザベスの彼に対する愛着は、だれの目にも明らかで、外国の使臣たちもみな、女王がいずれこの美青年と結婚するものと信じて疑わなかった。女王がロバートの室を、自分の寝室の隣りに移したという噂さえあったロバートの妻は乳癌を患っていて、女王は彼と結婚するのに彼女の死を待つばかりとも伝えられた。 ところが、ロバートの妻が不慮の過失であっけなく死んだ後も、女王は相変らず、結婚の意思を露ほども見せなかった。
*入力者注:河出文庫版ではエドワード四世となっているが、ヘンリー八世の子にエドワード四世と呼ばれる子はいない。エリザベス一世の異母兄弟で王位に就いたのは、エドワード六世とメアリ一世なので、ここではエドワード六世が正しいと思われる。 |