フリー・セックスの実践家のように奔放に恋をした女性美の理想像女性の実の理想、女性のなかの最も女性らしいもの、それがギリシア人の考えた女神ヴィーナスである。 伝説によれば、ヴィーナスは海の泡(アフロス)から生まれ、西風に送られて、キュプロス島に流れついたといわれている。だからヴィーナスは別名をアフロディテーといい、名高いボッティチェリの絵に見られるように、素裸で貝殻にのって、海から現われるのである。キュプロス島は、かつてはヴィーナス崇拝の一大中心地であった。 ミロのヴィーナス像を見ればお分りのように、彼女はどこから見ても完全な肉体美を誇り、しかも青春の化身のような若さと、ういういしさと、気高さと、羞恥心とを示している。十九世紀の初めごろ、この彫像がメロス島の農民によって掘り出されたとき、その美しさに彼らが茫然としてしまったという伝説があるのも、もっともである。 周知のように、ミロのヴィーナスには両手が欠けているが、ある詩人の意見によると、彼女は両手が欠けているからこそ、私たちの想像力をますます刺激し、ますます実の幻影を完全ならしめるという。たしかに、その通りにちがいあるまい。 発掘された古代のヴィーナス像には、腰から下を着物でおおったミロのヴィーナス以外にも、いろんな姿態を示した、多くの美しい彫刻作品がある。ゲネトリクスのヴィーナスのように、肌にぴったりした薄い着物を着ているのもあれば、クニドスのヴィーナスのように、水浴しようとして、いま着物を壷《つぼ》の上に脱ぎすてたばかりの裸体像もある。 そうかと思うと、カリプゴスのヴィーナス像のように、うしろを向いて、着物の裾をばっとまくりあげ、自分の美しいお腎を見せている、大胆な姿態を示しているのもある。カリプゴスとは、ギリシア語で「美しい臀」という意味である。 |