魔女として、生きながら焼き殺された昔から、処女というイメージには、なにか超自然的な、そして危険な、一種の魔力があるものと信じられてきた。 ギリシア神話の処女神は、月の女神ディアナであるが、彼女には冷たい「月」の性格とともに、野山を駈けめぐつて、男の子みたいに弓矢をもって獣を追いまわす、勇敢な女性のイメージが結びついていた。北欧神話のヴァルキュリーも処女神であるとともに、戦闘好きな破壊の女神である。 童話や物語に登場する、水のなかに住む魚の下半身をした人魚や、ライン河のローレライや水の妖精オンディーヌなども、男を迷わせる危険な魔力のある、処女神の変形した姿であろう。処女の冷たい面が、1月」ではなくて、ここでは「水」によって象徴されているのである。 歴史のなかに出てくる実在の女性にも、こうした処女神に対する信仰と結びついたものがある。たとえば、フランスの愛国心のもっとも純潔な象徴であって、しかも、イギリス軍に怖れられ、魔女として焼き殺されたジャンヌ・ダルクの場合がそれだ。 一四二九年三月。男のように銀色の甲胃に身を固めた、ひとりのうら若い乙女が、当時、フランス王太子シャルルの住んでいたシノンの町へやってきて、王太子にお目にかかりたいと申し出た。 彼女は十七歳。ジャンヌと呼ばれ、ロレーヌとシャンパーニュのあいだの小さな村、ドムレミの生まれであり、貧しい羊飼いの娘であった。肌の色はやや浅黒いが、つつましく、美しい娘である。べつに変ったところもない。 |