男たちに取り巻かれながら、実は処女だった現在のイギリスの女王はエリザベス二世であって、エリザベス一世は、今からおよそ四百年前のイギリスの女王さまである。これからお話するのは、もちろん、このエリザベス一世のほうである。 姉の死後、二十五歳で王位についたエリザベスは、並はずれた虚栄心の強い女性で、すべての男が自分に恋し、すべての政治が自分を中心に動いていなければ気がすまない、といったところがあった。恋愛ごっこが大好きで、七十歳で死ぬまでに、寵愛した男性は数え切れないほどだった。 当時のイギリスの宮廷風俗は、まことに華美をきわめていて、男も女も、ファッションやモードには、日の色かえて熱中した。たとえば、女王の寵愛の厚かった、あのタバコで有名なサー・ウォルター・ローリなどは、伊達男《ダンディー》中の伊達男《ダンディー》として知られている。 当時の貴婦人の服装は、極端に胸をしめつけ、袖を優雅にふくらませ、腰から下に大きく張ったフープ(鯨骨の枠)を入れて、スカートをふくらませるという、豪華なものであった。 男だって、負けてはいない。シェークスピアの芝居などごらんになれば分るように、当時の男の服装の派手なことは、驚くばかりである。細いぴっちりしたズボンに脚をつつみ、ズボンの胯間には、コッドピース(股袋)というものを縫いつける。要するに、男性の象徴をおさめるための袋である。ちょうど現代の女性がブラジャーにパッドを入れるように、この袋をできるだけ大きくして、見せびらかして歩いたのである。 こうした派手な宮廷で、何人もの男たちに取り巻かれて、恋愛三昧に明け暮れていたエリザベス女王が、じつは処女だったというのだから、考えてみれば不思議な話ではあるまいか。 |