人外魔境9
をテンプレートにして作成
[
トップ
] [
新規
|
一覧
|
単語検索
|
最終更新
|
ヘルプ
]
開始行:
青空文庫提出用
第九話 第五類人猿《アンソロポイド》
久生十蘭
[#ここから3字下げ]
化木人《ラーモス・デ・ジンテ》
[#ここで字下げ終わり]
今夜は、いよいよ「神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イ...
南米一の大河アマゾン本流が、ペルー境に近付いたあたりに...
が、さて此処《ここ》は……誰しも奥アマゾンといえば大原始...
一つは一九二〇年にコロンビア大学の薬学部長、ラマビー博...
"Corda[#aはウムラウト(¨)付き]o de umbigo《コルドー...
すなわち、切れたら最後の命の緒という意味。ここは、河面...
"Brejo de Euryale Carnivorus《ブレージョ・デ・ユーリア...
世界一の大蓮、ヴィクトリア・レジアにまさる十メートル余...
次が、一九三四年米国地理学協会の、これは、飛行機による...
曰く、"Gotta da cobras《ゴッタ・ダ・ブラス》"(毒蛇の点...
"Costella de Inferno《コステルラ・デ・インフェルノ》"(...
「毒ある空焼け《アレボール・ヴェネノーザ》」――。この、...
何がある⁈ また、そこには何かあると想像されている...
私が、そのことを折竹に訊くと、
「さあねえ」
と彼は意味あり気に微笑んで、
「これは君、興味上保留しとこうと思うよ。しかしだよ。その...
「頼む」
「じゃ、まず最初にこの話からしてゆこう。君は奥アマゾン名...
「珍しいもんかね」
「そうだ、僕の口ぶりじゃザラにあるようだけれど、まだこれ...
「どこへ」
「それがね、ジュタイがアマゾン本流に合してから五十キロほ...
「では、その棲息地が『神にして狂う』河か」
「そうなっている。で、ここで面白いのがその化木人の掌、サ...
「それが、どうした」
「つまり、掌紋からして三つの類人猿と、黄、白、黒、三人種...
「では、とうに死滅した奴の中に」
「インカか⁈」
と折竹はじぶんでそう言って、意味ありげにニヤリニヤリと...
十六世紀の昔、スペイン人に滅ぼされた大富国インカ族の版...
その一つは、当時略奪をまぬかれた、王室の巨宝の行方。一...
またもう一つは、王弟ワスカルの妃バタラクタが、同族をひ...
土中の黄金⁈ それとも、どこか密林中に蔦葛に覆われ...
しかし、折竹は二度とインカには触れず、
「つまり、その『第五類人猿』という仮想的存在だね。人猿不...
[#ここから3字下げ]
新宝島の怪婦人
[#ここで字下げ終わり]
リマの海港カリャオの埠頭《ふとう》、そこへツルマーヨ耕...
彼が、ペルーへ来てからもう、十か月にもなる。そのあいだ...
その前夜、いま知人を見おくったカリャオの埠頭で、彼の肩...
のだ。
「先生、妙なところでお目にかかるもんで……」
と言われてひょいと振りむくと、かねて顔見知りのニューヨ...
「奇遇だ」
と折竹もいつまでも手を離さず、
「追い込みかね。ここへ、猛牛ファーレー君がくるようじや、...
「そうです」
とファーレーは隠さず領いた。しかし、そのファーレーもど...
「そいつがね。いよいよ追い詰めた土壇場で、消えちまったん...
追っかけ二千マイルですかね。それが……そいつの故郷のリマで...
「その男は、なんと言う?」
「いや、女でして」
と腹癒《はらい》せのように、ファーレーはべっと唾を吐く。
「齢は二十四、五の、ちょっとした女《あま》ですよ。先祖が...
「じゃ、君を撒《ま》いたりするような、そんな気配はなかっ...
「そうですとも。こっちは、いろいろ無い智恵をしぼるから、...
「じゃ、なんという名の?」
「ドーニァ・ジオルダーノって言います。そいつがね、このリ...
ドーニァ・ジオルダーノ――その名を聴いたときちょっと顔を伏...
ドーニァは、けっして心の底まで荒《すさ》んだ女じゃない...
では、あのドーニァが殺人者か――と、くらい潮をみつめ排水...
「これまで阿魔は、独りぽっちのお袋に金を送ってたんですよ...
さて、彼はファーレーをのこし、翌朝船出をした。ココス島、...
ココス島は、パナマの西海岸から四百マイルほどの位置。文...
折竹とホアンが、この島についた翌日のこと。全島を覆う鬱...
「時に、この発掘は誰の出資だね。例の、コカ王のロドリゲス...
と折竹がぷうっと紫煙を靡《なび》かせる。しかしこの事は、...
「そうだ。しかし、ロドリゲス先生も期待しちゃいまいよ。こ...
「じゃ、そんな気持だけで、金をだすような男かね」
「いや、どうして。あの先生の欲ときたら、人間離れがしてい...
リマのクラブで、ホアンがちょっと口走ったことから、よう...
今度も「神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イオス》」河...
ホアンは、静かな学者らしい男だ。三十を過ぎても女を知ら...
「ホアン君、君はここへくる前夜、お別れをしてきたろうね。...
「それがね」
ホアンはちょっと顔を曇らして、
「いないのさ。買物に行ったなり、帰ってこないという。翌朝...
「そうだろう。とにかく、その女は断念《あきら》めてしまい...
「なぜだ。薮《やぶ》から棒に、どうしたという訳だ⁈」
「それは、君には適《ふさ》わしくない女だからだ。君は、そ...
「定まり文句だね」
とホアンはせせら嗤《わら》うように言う。
「なるはど、ドーニァはいま賎《いや》しい身過《みすご》し...
「そうか」
と、暫く折竹は足もとの砂を見つめていたが、
「では、ドーニァがどんな女かと証拠を、ここで君にハッキリ...
「えっ、なに」
「じっは、ドーニァを追ってきたファーレーという刑事と、僕...
それなり、ホアンはなにも言わなくなった。信じようか信じ...
椰子の葉陰から、夕暮ちかい光線《ひかり》が矢のように差...
ひょっくり、飛びだしているのが鳥の形のようなもので、苔...
「なんだ、こりや」
と折竹の頓狂な声に、ホアンも惹《ひ》かれたように、ふり...
その瞬間、ほんの一瞬だがじっと目がすわったけれど、いま...
きっとこれは、ホアンの気が鎮まったら分るかもしれないと...
するとその夜、この島に奇怪なことが起ったのである。
夕食後の散歩に砂を踏んでいた折竹の目に、はるか前方の汀...
「この、絶海の無人島に人間がいるわけはない、目のせいか...
では、どこかに船が着いているのか。と、闇の海上をみたが...
「女だ!」
と、また新たな驚きに撫でまわす折竹の指に、腕ふかく食い...
「ドーニァ!」
ああ、ドーニァ・ジオルダーノ。それが、絶海のこの島の潮...
[#ここから3字下げ]
「神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イオス》」河へ
[#ここで字下げ終わり]
ドーニァは、まもなく気がついた。しかし、問われてもどう...
しかし、折竹は相当突っこんで、訊きだした。
「あんたが、船底に囚われている間ですね。なにか、水夫同士...
「ないわ。ただ、こわい顔で睨めるばかりで……私が聴いたのは...
「じゃ、女の声のようなものは」
「それは……たしか一度だけ聴いたと思います。齢ごろの、見当...
「姿はみませんね」
「ええ」
とドーニァはコックリと領《うなず》いた。唇のあつい、濡...
快走艇着の女、それがドーニァに絡《から》む秘密のような...
「あんたには、なにか殺されるような、事情が、おありかね」
「そんなこと」
とドーニァはちょっと笑って、
「殺すほうも、殺されるほうも……私にはどっちとも無いですわ」
嘘を吐け、ニューヨークで情夫《おとこ》を殺しここへ逃げ...
「君は、なんと偉いものを見付けたもんだ。『メアリー・ダイ...
「ううむ」
と折竹が嘆声を発するところへ、
「で、それに就いてこんな物語がある。つまりだね、国家万一...
「なるはど、物言う王冠というわけか」
「そうだ。そこへパタラクタが二千枚の黄金板とともに、はる...
とホアンは暫く感慨ぶかげに黙っていたが、やがてボツボツ...
「アタワルパ王は、部屋いっぱいを埋める黄金を積んで、ピザ...
――パタラクタが逃げたそうだね。だが、あれがどこへ行った...
と言って、王冠を置いて処刑室にいったのだが、それを受け...
と言った、ホアンの手がどこに落ちたかというと、それは頭...
「コラケンケ⁈」
と折竹も異様な名に惑うところへ、
「君が、知ってなくてはならん。黒鶴鵡《くろおうむ》だよ。...
『神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イオス》』河の魔域に...
折竹は、それを聴くと魅せられたように、黙ってしまった。"...
そこに、黒鸚鵡がいるということはかつてそこを過ぎた、ラ...
黒鸚鵡《コラケンケ》、黒い鸚鵡のいる「越えられぬ灌木帯...
「とにかく」
とホアンが沈黙をやぶって、言いだした。
「この王冠は、とにかく出資者のロドリゲスの所有になる。...
「定まってる。全身欲ぶくれのような奴のことだから、こと...
しかし僕は、『越えられぬ灌木帯《マナン・パサンチュ》』...
こうして、いずれ行かねばならぬ魔境の種々相を、濃藍の海...
「時に君、ドーニァの殺人というのは本当のことかね」
「嘘にも、言っていい事と悪いことがあるよ。なんでも、その...
「そうか、絶対なのかね」
とホアンはむすっと黙ってしまった。なにか、ドーニァの処...
ドーニァがニューヨークでした情夫殺しと、あの快走艇着の...
やがて、三人はリマへ帰った。舞台は、この孤島からロドリ...
「ホウ、ご両人ともさすが見上げたもんじゃ。欲をだすようで...
ロドリゲスが、脂肪肥満でだぶ付いた顎《あご》をゆるがし...
折竹は、むしろホアンの任事についての好意的援助。おそら...
「越えられぬ灌木隊《マナン・パサンチュ》」はおろか、「臍...
「とにかく、この『越えられぬ灌木帯《マナン・パサンチュ》...
これは折竹さんの仕事で、『神にして狂う《リオ・フォルス・...
「では、あなた自身は行かんのですかね」
「行かんで、どうする」
とロドリゲスがちょっと目を剥《む》いた。発掘物を胡麻化...
「私は、あんたがね。なぜ私みたいな女に、血道をあげるのか...
ドーニァは、ずれる薄着を肩にあげながら、怖いような目で...
「そんなことは、僕ら二人の仲じゃ、何のことでもないよ。君...
「だけどね、あんたは私という女がわかったら、きっと厭にな...
そう言ってドーニァが、鍵のかかった小笥《キャビネット》...
「見て、私という女の洗いざらいが、これにあるの。最初の、...
ドーニァの過去を洗いざらい曝《さら》けたような、遊女に...
「どう、あんたは、気が悪くなったでしょう」
「別に」
とドーニァをみるホアンの顔には、いまのあの翳《かげ》が...
「これで、君の過去がすっかり分ったつもりだ。だが、僕は君...
「なァぜ」
「君が、全部を曝《さら》けだしたことは、愛情の証拠だよ。...
ドーニァは、じぶんの心の奥底を知らなかったように、狼狽...
「ファーレー」
とドーニァがかるい叫び声をたてた。
「あいつ、ニューヨークの刑事《でか》なんだけど」
「それだ。君が、ここから出られないのはどういう理由だと、...
「だけど、私なにも、悪いことはしないわよ。あんな刑事に追...
「そう、それならいいが」
とホアンが、女の一挙一動を見逃がすまいとするかのように...
「とにかく、君は知らないだろうが向うはあんな具合だから、...
ところが翌日、リマの郊外にある。"Qquente《ケンテ》"とい...
ただ、折竹は陽を浴びるこの女と関連して、いつぞやの快走...
[#ここから3字下げ]
猿人の指跡
[#ここで字下げ終わり]
まず、最初の困難が、「臍の緒《コルドーン・デ・ウムビー...
じっに、雲をさく山巓《ピーク》からくらい深淵の河床にか...
鳥も、峡谷のくらさにあまり飛ばないところへ、人が、どん...
地平線は、樹海ではじまり樹海でおわっている。一色のふか...
「これが、折竹さん、どうしたというんじゃ。これが、越えら...
す」
ロドリゲスが、なんの訳ないというように折竹をみるが、こ...
土と思ったのは、腐りきらないコラブ茎の堆積《たいせき》...
り、あたり一帯が気味悪い揺れかたをする。前をゆく人の後ろ...
「ふうむ、まるで生きものみたいじゃな。おいコンチャ、儂《...
そのコンチャはこの一行の炊事婦で、ペルー人とプシュラ印...
「とうとう、儂も運を掘り当てたらしいですな。寺院の礎石か...
で、発掘を明日にのばしたその夜のことである。焚火をして...
「おい、ファーレー、頭巾《ずきん》を除れよ」
「見つかりましたかね」
とその人夫は歯切れよく言って、苦笑した。ファーレーだ。...
「これでも、汚なく作ろうとずいぶん苦心したんですが、やは...
「驚いた、猛牛先生の根気にゃ負けたよ。しかし、ドーニァは...
「おやおや、ドーニァの肩をもって儂《わし》を柔道で紋め殺...
そんなわけで、ファーレーが忽然《こつぜん》と現われたこ...
をおこさせた。ホアンも、温厚な彼にはめずらしく恐ろしい気...
しかし、ついにそれは無かった。おまけに、どこを見ても黒...
「これで、儂《わし》が引き返せると思うかいな。もっともっ...
薄い髪毛を掻きむしり、人夫を鞭打ちながら、ロドリゲスは...
「しかし、此処にぽつりと遺跡が出たのですからね。そうそう...
その時、ホアンの目に輝いた異常なひかりを、誰一人気付く...
「畜生、ここですむかと思ったら先へゆくなんて、|黄金板《...
だして隊を帰し、ドーニァを俺にしょっ引かせろ」
翌日、負傷者をだしながら此処を越え、いよいよ奥アマゾソ...
そこを、誰しも湿地とは思うまい。焼土のようなまっ赫《か...
しかしまだ、ここは暗黒奥アマゾソの戸端口《とばぐち》に...
「いったい、折竹さん、どこまで行くんです」
ファーレーも、そろそろ音をあげはじめてきた。
「何処へって⁈ インカの遺跡があって、黄金板がでるま...
「冗談じゃない。あんたは、マラリヤでもなんでも免疫でしょ...
「死ぬんだね。あの二人は、じつにいい恋人だ。犬に喰われて...
一人たおれ二人たおれ死骸を埋めながら、一行は地獄への旅...
「儂《わし》は、どうもあんたを信じすぎたように思う。そり...
「しかし、どんな探検でも発掘でも、伝説によらぬものはない...
「ふむ、理窟はそうじやろうが」
とロドリゲスが胡散《うさん》臭そうな目をし、
「じっはな、さっきファーレーというあの刑事君から聴いたが...
ちょっと、ホアンの咽喉《のど》が鳴り、痞《つか》えたよ...
「読めた。儂《わし》は明日、断然たる処置にでる。ドーニァ...
それから、ロドリゲス、ファーレ一間に密談が続いた数時間...
サボテンや、竜舌蘭《りゅうぜつらん》がどうしたことか枯...
え異様な怪獣の声をまじえ、じつに眠られぬ一夜であった。と...
「大変でがす。ロドリゲス様がオッ死んでいるだ」
ゆくと、咽喉《のど》をかき毟《むし》っているロドリゲス...
第五類人猿⁈ きのうの唸り声はやはりそれだったのか。
[#ここから3字下げ]
化木人
[#ここで字下げ終わり]
誰一人、烈日のしたで沈黙をやぶるものがない。蚋《ぶよ》...
「来たんだな」
と目では囁きあうが誰もいうものがないところへ、猛牛《ブ...
「じゃ、これは何ですかね、お猿の仕業だってんで」
「そうなんだよ」
と折竹も呟くような声だ。
「この奥の、奥のずうっと奥にだね。まだ地上に未発見の五番...
「へえ、そんなのがね」
とファーレーは明らかに浮かぬ顔。世俗のことには、紐育下町...
「しかしですよ」
と折竹を円陣から連れだして、
「その、ごついお猿のことは、まず扠置《さてお》いてですね...
「なるほど、それにしても、この掌紋はどうなるね。人夫がど...
「そりや、分りません。しかし、考えると女のドーニァでは、...
と今度はホアンを呼んで、
「ねえ、あんた、あんたはインカの黄金《きん》の所在を知っ...
とカマをかけたのに、引っ掛ったホアンが、
「うん、いかにも知っている。やはり『越えられぬ灌木帯《マ...
「ハッハッハッハ、咽喉から手がでる思いで、要らん要らんと...
「じゃ君は、僕が横奪《よこど》りしようとでもしたと……」
「そうだ、そうなりやこの爺《じじい》が邪魔だ」
「ふむ」
と、暫くホアンは呆《あき》れたように相手をみていたが、
「止むを得ん、弁解しょう。じつをいうと、君にドーニァを渡...
ひどい奴だと、こう明らさまに言われて文句も出ないファー...
さて、折竹がゴム樹にのばってみると、これまでの半草原帯...
なにかを追いもとめる、悶《もだ》えるような悲しみの色。...
「どうも、変だ、『神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イオ...
「さァどうかね」
と折竹も憮然《ぶぜん》と呟くのみだった。
しかしその数日後、いよいよ折竹、ホアン、ドーニァの三人...
「成功をいのる。儂らはここに、二週間ほどいるからね。ぜひ...
そのとき、炊事婦のコンチャの顔をつつむ殺気と喜悦の色に...
密林下の川――。護謹《ゴム》樹、椰子《やし》、パルパティ...
「このまっ暗な中を、どうしてゆくね」
と、ホアンが不安そうな顔。
前方には、点々とちりばめたような大鰐の目。大水蛇《アナ...
「あっ、"Tucandero《ツカンデロ》"」
と折竹も愕《ぎよ》ッとしたように叫んだのは……長さ二イン...
どうしたことか|アマゾソ大蟻《ツカンデロ》の大群が、周...
爬虫類や蟻は、光のなかで黄と赤を好む。青や紫は大の嫌い...
すると、最後の舟の尾灯のなかに、なにやら紙のようなもの...
この紙は、おそらく死に絶えたころ、貴方がたの舟に着くで...
私とドーニァは、真《まこと》をいえば実の姉妹です。しか...
です。きっとそれは、誰にも考えられぬような遠い祖先の特徴...
私は、自分自身の幸福のため、おそろしい決意をしたのです...
私は、本名をイザベラと申します。|アマゾソ大蟻《ツカン...
恐ろしい女――と読んでゆくうち堪らない嫌悪の情。女の執念...
しかし、一方核心へ近付くにつれ、この一行を不思議なもの...
昨夜、コンチャが絞め殺されてしまった。しかしこれで、ロ...
天の配剤と、コンチャの死は当然のように思われた。しかし...
「胎内川《リオ・ノオ・パリーガ》」をでると、名もしれぬ潅...
「ううむ、こいつ」
と折竹がボンと手をうって言った。
「これは、"Cattleya Eldorado《カットレヤ・エルドラドー》...
渺茫、蘭花の咲く狂気の原野。もし風が変ってこっちへ吹い...
この森閑とした狂気の楽園近くへ、どこか遠くでしている咆...
翌朝、ドーニァの姿が天幕《テント》から消えていた。折竹...
「血の掟《おきて》。また『神にして狂う《リオ・フォルス・...
暁は、「毒ある空焼け《アレボール・ヴェネノーザ》」を血...
終了行:
青空文庫提出用
第九話 第五類人猿《アンソロポイド》
久生十蘭
[#ここから3字下げ]
化木人《ラーモス・デ・ジンテ》
[#ここで字下げ終わり]
今夜は、いよいよ「神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イ...
南米一の大河アマゾン本流が、ペルー境に近付いたあたりに...
が、さて此処《ここ》は……誰しも奥アマゾンといえば大原始...
一つは一九二〇年にコロンビア大学の薬学部長、ラマビー博...
"Corda[#aはウムラウト(¨)付き]o de umbigo《コルドー...
すなわち、切れたら最後の命の緒という意味。ここは、河面...
"Brejo de Euryale Carnivorus《ブレージョ・デ・ユーリア...
世界一の大蓮、ヴィクトリア・レジアにまさる十メートル余...
次が、一九三四年米国地理学協会の、これは、飛行機による...
曰く、"Gotta da cobras《ゴッタ・ダ・ブラス》"(毒蛇の点...
"Costella de Inferno《コステルラ・デ・インフェルノ》"(...
「毒ある空焼け《アレボール・ヴェネノーザ》」――。この、...
何がある⁈ また、そこには何かあると想像されている...
私が、そのことを折竹に訊くと、
「さあねえ」
と彼は意味あり気に微笑んで、
「これは君、興味上保留しとこうと思うよ。しかしだよ。その...
「頼む」
「じゃ、まず最初にこの話からしてゆこう。君は奥アマゾン名...
「珍しいもんかね」
「そうだ、僕の口ぶりじゃザラにあるようだけれど、まだこれ...
「どこへ」
「それがね、ジュタイがアマゾン本流に合してから五十キロほ...
「では、その棲息地が『神にして狂う』河か」
「そうなっている。で、ここで面白いのがその化木人の掌、サ...
「それが、どうした」
「つまり、掌紋からして三つの類人猿と、黄、白、黒、三人種...
「では、とうに死滅した奴の中に」
「インカか⁈」
と折竹はじぶんでそう言って、意味ありげにニヤリニヤリと...
十六世紀の昔、スペイン人に滅ぼされた大富国インカ族の版...
その一つは、当時略奪をまぬかれた、王室の巨宝の行方。一...
またもう一つは、王弟ワスカルの妃バタラクタが、同族をひ...
土中の黄金⁈ それとも、どこか密林中に蔦葛に覆われ...
しかし、折竹は二度とインカには触れず、
「つまり、その『第五類人猿』という仮想的存在だね。人猿不...
[#ここから3字下げ]
新宝島の怪婦人
[#ここで字下げ終わり]
リマの海港カリャオの埠頭《ふとう》、そこへツルマーヨ耕...
彼が、ペルーへ来てからもう、十か月にもなる。そのあいだ...
その前夜、いま知人を見おくったカリャオの埠頭で、彼の肩...
のだ。
「先生、妙なところでお目にかかるもんで……」
と言われてひょいと振りむくと、かねて顔見知りのニューヨ...
「奇遇だ」
と折竹もいつまでも手を離さず、
「追い込みかね。ここへ、猛牛ファーレー君がくるようじや、...
「そうです」
とファーレーは隠さず領いた。しかし、そのファーレーもど...
「そいつがね。いよいよ追い詰めた土壇場で、消えちまったん...
追っかけ二千マイルですかね。それが……そいつの故郷のリマで...
「その男は、なんと言う?」
「いや、女でして」
と腹癒《はらい》せのように、ファーレーはべっと唾を吐く。
「齢は二十四、五の、ちょっとした女《あま》ですよ。先祖が...
「じゃ、君を撒《ま》いたりするような、そんな気配はなかっ...
「そうですとも。こっちは、いろいろ無い智恵をしぼるから、...
「じゃ、なんという名の?」
「ドーニァ・ジオルダーノって言います。そいつがね、このリ...
ドーニァ・ジオルダーノ――その名を聴いたときちょっと顔を伏...
ドーニァは、けっして心の底まで荒《すさ》んだ女じゃない...
では、あのドーニァが殺人者か――と、くらい潮をみつめ排水...
「これまで阿魔は、独りぽっちのお袋に金を送ってたんですよ...
さて、彼はファーレーをのこし、翌朝船出をした。ココス島、...
ココス島は、パナマの西海岸から四百マイルほどの位置。文...
折竹とホアンが、この島についた翌日のこと。全島を覆う鬱...
「時に、この発掘は誰の出資だね。例の、コカ王のロドリゲス...
と折竹がぷうっと紫煙を靡《なび》かせる。しかしこの事は、...
「そうだ。しかし、ロドリゲス先生も期待しちゃいまいよ。こ...
「じゃ、そんな気持だけで、金をだすような男かね」
「いや、どうして。あの先生の欲ときたら、人間離れがしてい...
リマのクラブで、ホアンがちょっと口走ったことから、よう...
今度も「神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イオス》」河...
ホアンは、静かな学者らしい男だ。三十を過ぎても女を知ら...
「ホアン君、君はここへくる前夜、お別れをしてきたろうね。...
「それがね」
ホアンはちょっと顔を曇らして、
「いないのさ。買物に行ったなり、帰ってこないという。翌朝...
「そうだろう。とにかく、その女は断念《あきら》めてしまい...
「なぜだ。薮《やぶ》から棒に、どうしたという訳だ⁈」
「それは、君には適《ふさ》わしくない女だからだ。君は、そ...
「定まり文句だね」
とホアンはせせら嗤《わら》うように言う。
「なるはど、ドーニァはいま賎《いや》しい身過《みすご》し...
「そうか」
と、暫く折竹は足もとの砂を見つめていたが、
「では、ドーニァがどんな女かと証拠を、ここで君にハッキリ...
「えっ、なに」
「じっは、ドーニァを追ってきたファーレーという刑事と、僕...
それなり、ホアンはなにも言わなくなった。信じようか信じ...
椰子の葉陰から、夕暮ちかい光線《ひかり》が矢のように差...
ひょっくり、飛びだしているのが鳥の形のようなもので、苔...
「なんだ、こりや」
と折竹の頓狂な声に、ホアンも惹《ひ》かれたように、ふり...
その瞬間、ほんの一瞬だがじっと目がすわったけれど、いま...
きっとこれは、ホアンの気が鎮まったら分るかもしれないと...
するとその夜、この島に奇怪なことが起ったのである。
夕食後の散歩に砂を踏んでいた折竹の目に、はるか前方の汀...
「この、絶海の無人島に人間がいるわけはない、目のせいか...
では、どこかに船が着いているのか。と、闇の海上をみたが...
「女だ!」
と、また新たな驚きに撫でまわす折竹の指に、腕ふかく食い...
「ドーニァ!」
ああ、ドーニァ・ジオルダーノ。それが、絶海のこの島の潮...
[#ここから3字下げ]
「神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イオス》」河へ
[#ここで字下げ終わり]
ドーニァは、まもなく気がついた。しかし、問われてもどう...
しかし、折竹は相当突っこんで、訊きだした。
「あんたが、船底に囚われている間ですね。なにか、水夫同士...
「ないわ。ただ、こわい顔で睨めるばかりで……私が聴いたのは...
「じゃ、女の声のようなものは」
「それは……たしか一度だけ聴いたと思います。齢ごろの、見当...
「姿はみませんね」
「ええ」
とドーニァはコックリと領《うなず》いた。唇のあつい、濡...
快走艇着の女、それがドーニァに絡《から》む秘密のような...
「あんたには、なにか殺されるような、事情が、おありかね」
「そんなこと」
とドーニァはちょっと笑って、
「殺すほうも、殺されるほうも……私にはどっちとも無いですわ」
嘘を吐け、ニューヨークで情夫《おとこ》を殺しここへ逃げ...
「君は、なんと偉いものを見付けたもんだ。『メアリー・ダイ...
「ううむ」
と折竹が嘆声を発するところへ、
「で、それに就いてこんな物語がある。つまりだね、国家万一...
「なるはど、物言う王冠というわけか」
「そうだ。そこへパタラクタが二千枚の黄金板とともに、はる...
とホアンは暫く感慨ぶかげに黙っていたが、やがてボツボツ...
「アタワルパ王は、部屋いっぱいを埋める黄金を積んで、ピザ...
――パタラクタが逃げたそうだね。だが、あれがどこへ行った...
と言って、王冠を置いて処刑室にいったのだが、それを受け...
と言った、ホアンの手がどこに落ちたかというと、それは頭...
「コラケンケ⁈」
と折竹も異様な名に惑うところへ、
「君が、知ってなくてはならん。黒鶴鵡《くろおうむ》だよ。...
『神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イオス》』河の魔域に...
折竹は、それを聴くと魅せられたように、黙ってしまった。"...
そこに、黒鸚鵡がいるということはかつてそこを過ぎた、ラ...
黒鸚鵡《コラケンケ》、黒い鸚鵡のいる「越えられぬ灌木帯...
「とにかく」
とホアンが沈黙をやぶって、言いだした。
「この王冠は、とにかく出資者のロドリゲスの所有になる。...
「定まってる。全身欲ぶくれのような奴のことだから、こと...
しかし僕は、『越えられぬ灌木帯《マナン・パサンチュ》』...
こうして、いずれ行かねばならぬ魔境の種々相を、濃藍の海...
「時に君、ドーニァの殺人というのは本当のことかね」
「嘘にも、言っていい事と悪いことがあるよ。なんでも、その...
「そうか、絶対なのかね」
とホアンはむすっと黙ってしまった。なにか、ドーニァの処...
ドーニァがニューヨークでした情夫殺しと、あの快走艇着の...
やがて、三人はリマへ帰った。舞台は、この孤島からロドリ...
「ホウ、ご両人ともさすが見上げたもんじゃ。欲をだすようで...
ロドリゲスが、脂肪肥満でだぶ付いた顎《あご》をゆるがし...
折竹は、むしろホアンの任事についての好意的援助。おそら...
「越えられぬ灌木隊《マナン・パサンチュ》」はおろか、「臍...
「とにかく、この『越えられぬ灌木帯《マナン・パサンチュ》...
これは折竹さんの仕事で、『神にして狂う《リオ・フォルス・...
「では、あなた自身は行かんのですかね」
「行かんで、どうする」
とロドリゲスがちょっと目を剥《む》いた。発掘物を胡麻化...
「私は、あんたがね。なぜ私みたいな女に、血道をあげるのか...
ドーニァは、ずれる薄着を肩にあげながら、怖いような目で...
「そんなことは、僕ら二人の仲じゃ、何のことでもないよ。君...
「だけどね、あんたは私という女がわかったら、きっと厭にな...
そう言ってドーニァが、鍵のかかった小笥《キャビネット》...
「見て、私という女の洗いざらいが、これにあるの。最初の、...
ドーニァの過去を洗いざらい曝《さら》けたような、遊女に...
「どう、あんたは、気が悪くなったでしょう」
「別に」
とドーニァをみるホアンの顔には、いまのあの翳《かげ》が...
「これで、君の過去がすっかり分ったつもりだ。だが、僕は君...
「なァぜ」
「君が、全部を曝《さら》けだしたことは、愛情の証拠だよ。...
ドーニァは、じぶんの心の奥底を知らなかったように、狼狽...
「ファーレー」
とドーニァがかるい叫び声をたてた。
「あいつ、ニューヨークの刑事《でか》なんだけど」
「それだ。君が、ここから出られないのはどういう理由だと、...
「だけど、私なにも、悪いことはしないわよ。あんな刑事に追...
「そう、それならいいが」
とホアンが、女の一挙一動を見逃がすまいとするかのように...
「とにかく、君は知らないだろうが向うはあんな具合だから、...
ところが翌日、リマの郊外にある。"Qquente《ケンテ》"とい...
ただ、折竹は陽を浴びるこの女と関連して、いつぞやの快走...
[#ここから3字下げ]
猿人の指跡
[#ここで字下げ終わり]
まず、最初の困難が、「臍の緒《コルドーン・デ・ウムビー...
じっに、雲をさく山巓《ピーク》からくらい深淵の河床にか...
鳥も、峡谷のくらさにあまり飛ばないところへ、人が、どん...
地平線は、樹海ではじまり樹海でおわっている。一色のふか...
「これが、折竹さん、どうしたというんじゃ。これが、越えら...
す」
ロドリゲスが、なんの訳ないというように折竹をみるが、こ...
土と思ったのは、腐りきらないコラブ茎の堆積《たいせき》...
り、あたり一帯が気味悪い揺れかたをする。前をゆく人の後ろ...
「ふうむ、まるで生きものみたいじゃな。おいコンチャ、儂《...
そのコンチャはこの一行の炊事婦で、ペルー人とプシュラ印...
「とうとう、儂も運を掘り当てたらしいですな。寺院の礎石か...
で、発掘を明日にのばしたその夜のことである。焚火をして...
「おい、ファーレー、頭巾《ずきん》を除れよ」
「見つかりましたかね」
とその人夫は歯切れよく言って、苦笑した。ファーレーだ。...
「これでも、汚なく作ろうとずいぶん苦心したんですが、やは...
「驚いた、猛牛先生の根気にゃ負けたよ。しかし、ドーニァは...
「おやおや、ドーニァの肩をもって儂《わし》を柔道で紋め殺...
そんなわけで、ファーレーが忽然《こつぜん》と現われたこ...
をおこさせた。ホアンも、温厚な彼にはめずらしく恐ろしい気...
しかし、ついにそれは無かった。おまけに、どこを見ても黒...
「これで、儂《わし》が引き返せると思うかいな。もっともっ...
薄い髪毛を掻きむしり、人夫を鞭打ちながら、ロドリゲスは...
「しかし、此処にぽつりと遺跡が出たのですからね。そうそう...
その時、ホアンの目に輝いた異常なひかりを、誰一人気付く...
「畜生、ここですむかと思ったら先へゆくなんて、|黄金板《...
だして隊を帰し、ドーニァを俺にしょっ引かせろ」
翌日、負傷者をだしながら此処を越え、いよいよ奥アマゾソ...
そこを、誰しも湿地とは思うまい。焼土のようなまっ赫《か...
しかしまだ、ここは暗黒奥アマゾソの戸端口《とばぐち》に...
「いったい、折竹さん、どこまで行くんです」
ファーレーも、そろそろ音をあげはじめてきた。
「何処へって⁈ インカの遺跡があって、黄金板がでるま...
「冗談じゃない。あんたは、マラリヤでもなんでも免疫でしょ...
「死ぬんだね。あの二人は、じつにいい恋人だ。犬に喰われて...
一人たおれ二人たおれ死骸を埋めながら、一行は地獄への旅...
「儂《わし》は、どうもあんたを信じすぎたように思う。そり...
「しかし、どんな探検でも発掘でも、伝説によらぬものはない...
「ふむ、理窟はそうじやろうが」
とロドリゲスが胡散《うさん》臭そうな目をし、
「じっはな、さっきファーレーというあの刑事君から聴いたが...
ちょっと、ホアンの咽喉《のど》が鳴り、痞《つか》えたよ...
「読めた。儂《わし》は明日、断然たる処置にでる。ドーニァ...
それから、ロドリゲス、ファーレ一間に密談が続いた数時間...
サボテンや、竜舌蘭《りゅうぜつらん》がどうしたことか枯...
え異様な怪獣の声をまじえ、じつに眠られぬ一夜であった。と...
「大変でがす。ロドリゲス様がオッ死んでいるだ」
ゆくと、咽喉《のど》をかき毟《むし》っているロドリゲス...
第五類人猿⁈ きのうの唸り声はやはりそれだったのか。
[#ここから3字下げ]
化木人
[#ここで字下げ終わり]
誰一人、烈日のしたで沈黙をやぶるものがない。蚋《ぶよ》...
「来たんだな」
と目では囁きあうが誰もいうものがないところへ、猛牛《ブ...
「じゃ、これは何ですかね、お猿の仕業だってんで」
「そうなんだよ」
と折竹も呟くような声だ。
「この奥の、奥のずうっと奥にだね。まだ地上に未発見の五番...
「へえ、そんなのがね」
とファーレーは明らかに浮かぬ顔。世俗のことには、紐育下町...
「しかしですよ」
と折竹を円陣から連れだして、
「その、ごついお猿のことは、まず扠置《さてお》いてですね...
「なるほど、それにしても、この掌紋はどうなるね。人夫がど...
「そりや、分りません。しかし、考えると女のドーニァでは、...
と今度はホアンを呼んで、
「ねえ、あんた、あんたはインカの黄金《きん》の所在を知っ...
とカマをかけたのに、引っ掛ったホアンが、
「うん、いかにも知っている。やはり『越えられぬ灌木帯《マ...
「ハッハッハッハ、咽喉から手がでる思いで、要らん要らんと...
「じゃ君は、僕が横奪《よこど》りしようとでもしたと……」
「そうだ、そうなりやこの爺《じじい》が邪魔だ」
「ふむ」
と、暫くホアンは呆《あき》れたように相手をみていたが、
「止むを得ん、弁解しょう。じつをいうと、君にドーニァを渡...
ひどい奴だと、こう明らさまに言われて文句も出ないファー...
さて、折竹がゴム樹にのばってみると、これまでの半草原帯...
なにかを追いもとめる、悶《もだ》えるような悲しみの色。...
「どうも、変だ、『神にして狂う《リオ・フォルス・デ・イオ...
「さァどうかね」
と折竹も憮然《ぶぜん》と呟くのみだった。
しかしその数日後、いよいよ折竹、ホアン、ドーニァの三人...
「成功をいのる。儂らはここに、二週間ほどいるからね。ぜひ...
そのとき、炊事婦のコンチャの顔をつつむ殺気と喜悦の色に...
密林下の川――。護謹《ゴム》樹、椰子《やし》、パルパティ...
「このまっ暗な中を、どうしてゆくね」
と、ホアンが不安そうな顔。
前方には、点々とちりばめたような大鰐の目。大水蛇《アナ...
「あっ、"Tucandero《ツカンデロ》"」
と折竹も愕《ぎよ》ッとしたように叫んだのは……長さ二イン...
どうしたことか|アマゾソ大蟻《ツカンデロ》の大群が、周...
爬虫類や蟻は、光のなかで黄と赤を好む。青や紫は大の嫌い...
すると、最後の舟の尾灯のなかに、なにやら紙のようなもの...
この紙は、おそらく死に絶えたころ、貴方がたの舟に着くで...
私とドーニァは、真《まこと》をいえば実の姉妹です。しか...
です。きっとそれは、誰にも考えられぬような遠い祖先の特徴...
私は、自分自身の幸福のため、おそろしい決意をしたのです...
私は、本名をイザベラと申します。|アマゾソ大蟻《ツカン...
恐ろしい女――と読んでゆくうち堪らない嫌悪の情。女の執念...
しかし、一方核心へ近付くにつれ、この一行を不思議なもの...
昨夜、コンチャが絞め殺されてしまった。しかしこれで、ロ...
天の配剤と、コンチャの死は当然のように思われた。しかし...
「胎内川《リオ・ノオ・パリーガ》」をでると、名もしれぬ潅...
「ううむ、こいつ」
と折竹がボンと手をうって言った。
「これは、"Cattleya Eldorado《カットレヤ・エルドラドー》...
渺茫、蘭花の咲く狂気の原野。もし風が変ってこっちへ吹い...
この森閑とした狂気の楽園近くへ、どこか遠くでしている咆...
翌朝、ドーニァの姿が天幕《テント》から消えていた。折竹...
「血の掟《おきて》。また『神にして狂う《リオ・フォルス・...
暁は、「毒ある空焼け《アレボール・ヴェネノーザ》」を血...
ページ名: