【社員の「やる気」を科学する(1)】
人事制度改革が置き忘れたもの
 UFJ総合研究所 組織人事戦略部(東京) プリンシパル 吉田 寿
◆「成果」=「能力」×「やる気」
 日本企業は過去10年、人事制度の改革に
地道に取り組んできた。それは、いまも現在
進行形で続いている。しかし、昨今の成果主
義批判が盛り上がりを見せる中で、企業の人
事担当者も制度改革の陰に置き忘れてきたも
のに気づき始めた。それが本シリーズのテー
マ、「やる気」(=モチペーション)である。
 仕事における「成果」とは、何によっても
たらされるか。これには、さまざまな考え方
があるだろう。しかし、ここでは最もシンプ
ルに「成果」=「能力」×「やる気」の関係
式で考えてみたい。
 人事制度改革の中で取り組まれてきたのは、
仕事における最終的な「成果」を客観的に測
定するための方法と、その成果を上げるプロ
セスで発拝された「能力」に関する評価手法
の開発であった。しかしこれは、上記の公式
からすると、初めからパーフェクトな改革で
はなかったことに容易に気づく。言うまでも
なく「やる気」の要素が完全に欠落していた
からである.成果主義が浸透する一方で、社
員のモチベーションの低下が顕著となってい
る企業では、この「やる気」ファクターが何
らかの意味で阻害されている場合がかなり多
い。
 成果と能力の評価基準が明確にされたとし
ても、最終的な成果を確実に実現するために
は、その成果実現に向け、社員一人ひとりが
主体的・積極的な行動をとる必要がある。こ
の、人を具体的な行動に駆り立てる原動力と
なるものが、ここで言う「やる気」なのだ。
◆ES(社員満足度)戦略の重要性
 人事制度改革を進める一方で、社員の現状
の満足度に配慮する企業も実際に増えている。
とりわけ成果主義批判が高まる中で、現状の
社員の意識をきちんと把握して、次の人事施
策につなげていこうとする高い問題意識をお
持ちの経営者も多くなってきた。
 昨今では、企業再編や経営統合、M&A
(企業の合併・買収)といった形で、組織に
内的・外的なインパクトが与えられ動揺が生
じるケースも多くなったため、弊社に ES
(社員満足度)調査を依頼してくる企業も実
際に増えている。組織再編の時代には、これ
まで以上にES戦略の具体的な実行が重要性
を帯びてくるのである。
 ES戦略の意義は、言うまでもなく、まず
は現状の社員意識の確認にある。現時点での
会社や仕事に対する社員の意識や価値観、職
場の雰囲気や上司・部下・同僚たちとの人間
関係、仕事や組織を通じた将来ビジョンや社
員個々人のライフプランに対する考え方など
を確認することから始まるのである。
 しかし、ESの状況確認の重要性は、単にそ
れに留まるものではない。調査結果から明らか
になった問題点や課題を抽出し、それを今後の
重要取り組み事項として具体的な改善につなげ
ていくことが求められてくるからである。世間
で一般的に実施されているES調査の場合には、
現状確認レベルに留まり、具体的な施策展開に
まで結びつかないケースが多いので、特にこの
点は注意すべきだ。
◆ES調査には−定レベルの手法が必要
 ES向上策は、調査項目の単純集計やクロ
ス集計レベルでは明らかにされない場合が多
い。ここに多少の統計解析的手法の必要性が
出てくる。つまり、設問項目間の影響度や因
果関係を確認し、その満足度の構造を明らか
にして、科学的な施策立案・展開へと発展さ
せる必要性があるのである。この部分が調査
手法として確立していない場合には、ES調
査が十分機能しないまま終わってしまうのだ。
 それでは、社員の満足度の現状をどう捉え、
次の施策にどう展開していくか。この点につ
いて、次回以降で詳述したい。
※次回は「社員満足度の現状を把握する」
 (仮題)です。

#ls2(UFJ総研)

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