UFJ経営情報クラブ2005・10．14 No．05−188
【自分を賢く見せる技術（1）】
自分を賢く見せないといけない時代がやってきた
精神科医 和田 秀樹
日本人は、ある程度の知性があっても、そ
れを表に出さないほうが、奥ゆかしいと考え
られてきたし、むしろそういうタイブの人の
ほうが、本当に知的な人と見なされてきた。
いわゆる「能ある鹿は爪を隠す」というわけ
である。
そのため、自分の知識や考えを大っぴらに
披露する人より、どちらかというと静かに読
書を重ねる人のほうが賢そうに見られた。ま
た、とくに学者といわれる人たちは、仲間内
でディスカッションをしたり、論文を書くこ
とで、自分の知性を表明できればいいと考え
られていて、学問の世界に閉じこもる傾向が
あった。
日本の場合、企業に勤めていても、終身雇
用が原則なので、これ見よがしに、頭のよさ
を見せつけなくても、長い目で見れば、でき
る人間、知的な人間というのは、わかるもの
だという暗黙の前提もあった。
しかし、終身雇用の制度が崩れた上に、成
果主義、実力主義が当たり前のものになって
くると、そんな前提は成り立たない。たとえ
仕事のできる人でも、それを見せもしないで
気づいてもらおうと期待するのは、甘い考え
だろう。また、自分の実力を認めてくれるの
も、長年仕えた上司より、トップや経営陣の
判断ということが珍しくない。
そのため、自分ができることを早いうちに
見せておくと、何かにつけて得なことが多い。
たとえば、30代などで、実際に部長や支
店長のような責任あるポストに抜擢されるな
ど、企業の人事でも、幹部候補をかなり早い
うちに決めることが少なくない。
自分の実力がいつかは認められると待って
いる人より、それを早くから、いろいろな形
でアピールできる人のほうがずっと有利にな
つたわけだ。
私もこれまで、この、「daily UFJ総研」で
能力を高める方法をいろいろと紹介してきた
が、せっかく身につけた能力を、上手に見せ
るテクニックを身につけていないと、実用性
はずっと低いものになってしまう。
そういう時代認識もあって、以前から私は
「自分を賢く見せる」というタイトルの本を
出そうとしたことが何度かあったが、出版社
からは、そんな本を買うと、自分が賢くない
ことを認めることになるので売れない、と断
られることが多かった。最近になって、この
手の本を出すことができるようになったのは
時代の流れかもしれない。
ただ、私は自分を賢く見せたいと思う人は
それなりにしっかりと自己認識のできている
人だと思う。それなりの能力があるつもりな
のに、うまく認められていないと感じている
にせよ、自分は能力的にはいまいちなので、
どうにか見せ方だけでも工夫しようと思って
いる人にしても、自分のことがわかっている
その上で、自己改造をしようとしているのだ
から、これはある種のメタ認知（自分の認知
を認知すること、認知心理学上は重要な能力
とされる）が働いているといえる。つまりそ
ういう人のほうが賢いのだ。
いずれにせよ、次回からは、より具体的に
自分を賢く見せる技術を伝えていきたい。
（和田秀樹IIP ht叫仇�広�Whゐbwada．血）
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