脳はホントに面白い。「脳の中の幽霊」で挙げられた症例も人間の知覚について教えてくれる。
「脳の中の幽霊」という本では暗箱と鏡を使って同様のことを行っていたがARヘッドセットならもっと効果がありそうだ。
この記事の「拡張現実を用いた新しいタイプの治療が、最も難治の幻肢痛でさえ和らげるのに驚くほど効果的なのだ。」という表現は誤りだ(誤訳かもしれないが)。治療方法はすでにあった。「鏡によって行われていた治療法をARにすることで、従来の方法では困難だった幻肢痛でさえ和らげられた。」が正しいだろう。
それはともかく、このARによる治療は従来の鏡と暗箱による仮想現実と異なる可能性を秘めている。それに、暗箱では鏡で右手を見ているだけだから、右手からのフィードバックが邪魔をしそうな気がする。ARなら右手と関係なく左手を操作できるので、効果があるのではないだろうか。また、両手がない患者の治療にも使えるはずだ。
なお、このエントリの表題は幻肢痛の治療と正反対だ。ARによって脳に腕がないことを教えるのだ。それによって、異なる部位から送られる信号を手から来たと勘違いしなくなるのだ。
ARを用いた治療が、幻肢痛を和らげる | TechCrunch Japan
幻肢痛は、不思議な病だ:切断手術を受けた人たちが、そこには存在しない腕や脚にずきずきとした痛みや急激な痛みを感じる — 実際には存在しないということが治療を極めて困難にしている。ところが、拡張現実を用いた新しいタイプの治療が、最も難治の幻肢痛でさえ和らげるのに驚くほど効果的なのだ。
このAR治療法は、最初スウェーデンのチャルマース工科大学のMax Ortiz Catalanによって2014年に提案され、その最初の、非常に有望な臨床試験を完了したばかりだ。チームは、幻肢痛が慢性化し他の治療法では効果のなかった14人の切断患者を選択した。患者たちには、かつて失われた手を制御していた筋肉への信号を検出するために、筋電センサーが装備された。これらの信号は追跡され、分析され、仮想環境での動きにリンクされた — 画面上の手を開いたり、手首を捻ったりするのだ。
この初期位置調整が完了すると、仮想腕がライブウェブカムの患者の画像の、残っている腕の先に重ねられた。ユーザーが動きを考えると、仮想腕が動く。半月ごとに12回行われたセッションでは、患者たちは仮想腕を様々な場所に動かすことや、センサーをつかってレーシングゲームをすること、その他のことを求められた。
驚くべきことに、12セッションの終わりまでに、痛みは約半分に減り、痛みによる日々の活動や睡眠の妨げも、同様に減少したと報告された。4人の患者は鎮痛剤の量が減り、そのうちの2名は81パーセントの削減を行うことができた。半年後でも、その改善は継続しており、治療の効果が続いていることが示された。
「結果はとても勇気づけられるものです。特に、これらの患者が過去に最大4つの異なる治療法を試みて、満足のいく結果が得られていなかったことを考慮すると」とCatalanはニュースリリースで述べている。「また痛みが最後の治療に向かって継続的に減少していることもわかりました。痛みの軽減にプラトーがなかったという事実は、より多くのセッションでさらなる改善が達成できることを示唆しています」。
もしARの中で仮想手足を動かせば痛みを和らげることができるという考えが、奇妙なものに思えたとしても、安心して欲しい。それは実際に効果があるのだ。とはいえ、幻肢痛はあまり理解が進んでいない現象であり、時に治療の有効性は、その不思議さと見合うものだったりする。
幻肢に感じるかゆみも、また問題である:手足がないので掻くことができない痒みがそこにあることが、どんなに気の狂わんばかりのことかを想像してみて欲しい。ソリューションとして鏡を置くことで、無くなった手足がそこにあるようにみせることで、効果が出る幸運な人もいる。そして誰かがそれを掻くと、幻肢の痒みが消えるのだ。信じられないかもしれないが、こうした種類の鏡を使った治療法は確立された手法なのだ、必ずしも有効とは限らないのだが。
このARベースの方法は、次の論理レベルに引き継がれた鏡療法のようなものであり、この不思議ではあるがとてもリアルな状態を治療するための貴重なツールとなるのかもしれない。
次に控えているのは、同様に足を切断した30人の患者を使った更なるテストである。この最初の臨床試験についての論文はThe Lancetに発表された。