脳は「他者への罰」に快感を覚える

bkseminar_graph 「もっとも美しい数学ゲーム理論」では、この「囚人のジレンマゲーム」を世界の各国で行った場合に異なる傾向が出るということは知っておきたい。下の記事は特定の母集団の中で特定の次期・場所で行われた実験結果でしか無い。同じ実験でも、違う社会階層で行えば違う結果が出る可能性はある。この実験の対象集団はおそらくロンドン大学の学生だろう。大学の学生の中でも実験に進んで参加するような「勝ち組」傾向の強い集団であると考えられる。

とはいうものの、日本のヲタオヤジの自分にも「他者への罰に快感を覚える」というのには共感を覚える。というより、大好きかもしれない。自分の嫌いなビジネスモデルの会社がミスをして叩かれるのを見るのは爽快だ。「これで iPad と対抗できる」と発表会で言った会社のタブレットが「その他」に埋もれてるのを見て「自分の予想があたった」と満足するのも似たような心理だろう(このブログの大半がそれかもしれない)。

これについて、非常に興味深い実例をボードゲームおっぱいというpodcastで取り上げていた。ボードゲームの内容は文字にするのは困難なので番組(番外編 「ぼうねん!2012」1時間20分以降のウルフレンドクエスト)を聞いて欲しい。協力して進んでいて、プレーヤー同士が「いいね」をすれば有利になることが分かっているのにそうしない。この心理は「他社への罰を喜ぶ」に通ずるものがあるだろう。この客観的合理性に反する心理が楽しく観察されている。

ただ、「なぜ」そうなのかは下の記事には述べられていない。人間が社会を発達させる上で必要となった(あるいは獲得した)「社会性」と一体のものなのだろうか・・・

脳は「他者への罰」に快感を覚える:研究結果 « WIRED.jp

われわれはなぜ、憎悪されていた男が死んだときに、通りに集まって喜ぶのだろうか。その答えは、脳とゲーム理論の関係にあるかもしれない。

ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)の、Tania Singer氏率いる研究チームは数年前、『囚人のジレンマ』と関係した簡単な実験を行なった。

[囚人のジレンマは、「個々にとって最適な選択」が全体として最適な選択とはならない状況の例としてよく挙げられる問題。古典的なモデルでは、2人の共犯者が逮捕され、警察から別々に取り調べを受け、それぞれ同じ選択肢を与えられる――「自白する」(裏切り)か「黙秘する」(協調)かのどちらかだ。もし片方が裏切り、他方が協調した場合、裏切った方は釈放され、協調した方は10年の刑を言い渡される。両方が協調した場合、どちらも6ヵ月の刑となる。両方とも裏切った場合、2人とも5年の刑となる。どちらの容疑者も、相手が行なった選択を知ることができない]

研究チームは、被験者の目の前で囚人のゲームを演じさせ、被験者らが2人の「囚人」について、強い意見を持つようにした。

多くの場合、被験者は「裏切り者」に対して強い嫌悪感を抱き、信用のおけない嘘つきとみなすようになった。続いてチームは、被験者をfMRI(機能的磁気共鳴画像)装置に入れ、囚人役の演者の手に、痛みのある電気ショックを与えるのを見させた。

その結果、演者がショックを与えられたとき、すべての被験者の脳において、痛みにかかわる領域の活動が活発になった。他者の痛みに対して、共感を覚えずにはいられなかったのだ。ところが、「裏切り者」の演者にショックが与えられたときには、その活動はやや低下した。これは、「悪い社会的行動」をとった他者に対して、人々の感じる同情が低下し、他者の痛みに対する関心が薄くなったことを示している。

この実験で衝撃的だったのは、男性の被験者の結果だ。男性の場合は、裏切り者が罰を受けるのを見て、腹側線条体および側坐核など、脳の報酬に関わる領域の活動量が増大したが、女性にはこの増大は見られなかったというのだ。これらの領域は、ドーパミン報酬系を構成する重要な要素であり、報酬系はセックスやドラッグによって快感を得る神経系でもある。どうやらわれわれは、罰を受けるに値する人間が罰を受けることで、快感を得るようにできているらしい。

ゲーム理論をシンプルに具現化したこの囚人のジレンマというゲームは、何千回と繰り返して行なわれた場合、「しっぺ返し」という基本戦略が最も効果を発揮することがわかっている。しっぺ返しのルールは驚くほど単純だ。相手が出方を変えない限り、囚人は互いに協調する(自白しない)。ただし、相手が出方を変えてきたら、それと同じことを相手にやり返す。旧約聖書や、「目には目を」のハンムラビ法典のようなやり方だ。これによって、裏切りは確実に間違った選択肢となり、裏切ればしっぺ返しをくうことを人々は知る。人間の、少なくとも若い男性の脳が、「悪事を働いた他者」の痛みに快感を覚えるのは、このためだろう。

[選択が何度も繰り返され、各プレイヤーが過去の動きを記憶する「繰り返し囚人のジレンマ」ゲームについては、1984年から大会も行なわれている。通常は「しっぺ返し」戦略が有効だが、協調的な戦略を進化させることも可能」(日本語版記事)]

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